「パレード」というと、映画化されている吉田修一さんのパレードが有名ですが、川上弘美さんのパレードです。
吉田修一さんの作品も好きです。今度書こう。
パレード
「パレード」は、川上弘美さんの「センセイの鞄」に出てくる主人公の話です。
センセイの鞄を読んでいなくても読める本ですが、知っていると面白いです。
「昔の話をしてください」とセンセイが言った。昼寝のまどろみに浮かんだ少女の日々。名作『センセイの鞄』から生まれたもうひとつの物語。お昼のそうめんでお腹がくちくなり、センセイとてのひらを重ねまどろむうちに、ツキコさんの心にぽっかり浮かび上がる少女の日々。ある日突然あらわれた「モノ」たちとの交わりと、胸の奥が小さく波立った教室でのあのこと。忘れかけていたけれど、ずっと心の底に残っていた不思議な出来事を、愛らしいイラストとともに描く、名作「センセイの鞄」から生まれ出たもうひとつの物語。
新潮社/新潮文庫
私は知らなかったんです。こういう本が出ていたとは!
「センセイの鞄」の続編とかではないんです。
違う物語と思った方がいいのか、いや、センセイとツキコさんの日常。
かわいらしいツキコさんのかわいらしい(?)子供時代の物語。
別世界に行ける物語だと、私は思います。
川上氏はこう語っています。
センセイとツキコさんは、ほんとうのところ、日々どのように過ごしていたのだろう。
~省略~
そんな、本には決して、書かれなかった、作者であるわたしも知らない、センセイとツキコさんの時間を、
~省略~
作者も知らなかった、物語の背後にある世界。そんなものを思いながら、本書をつくりました。終わってしまった物語のよすがとして読んでくださればさいわいです。
自分の作品をちゃんと愛しているんだなぁ。と感じました。
作品に出てくる登場人物一人一人を、細部まで気にかけているんだと。
そんな風にとらえられます。
ページ数は80ページほどなので、ぐっとくることを書き出してしまうと全部になってしまいます。
今回は、やはりセンセイとツキコさんの事だけにします。
センセイとツキコさん
「耳たぶに指を当てる動作って、ちょっといいじゃありませんか、色っぽくて」
「ツキコさんは、そういうの、似合いませんよ」
「悪かったですね」
二人でお昼にソーメンを食べる準備をしているとことです。
ざるにあげたソーメンが熱くて耳たぶに手をやったくだり。
やっぱり、見てて(読んでて?)おもしろい、かわいい二人のやりとり。
「ごく若いひとだと跡なんぞはすぐに消えるけど、ツキコさんは消えないですね」
「悪かったですね」
昼寝をしてしまい、畳の跡が腕についてしまったツキコさんに対して放つセンセイのセリフ。
センセイの冗談に対して、憤慨することなく答えるツキコさん。
慣れてるからなのか、諦めているからなのか、きゅんとくる。
というより、ふふふ と笑ってしまいます。
「それで結局、そういう声が、出せるようになったんですか、ツキコさんは」センセイはあいかわらず仰向けになりながら聞いた。
「ぜんぜんですねえ」
「ぜんぜんですよねえ、たしかに」
「悪かったですね」
ツキコさんが子供の頃の話をしますが、その時にゆう子ちゃんという子が出てきます。
ゆう子ちゃんの声は優しくて、いつか自分もそんな声が出せるようになるんだろうか。というツキコさんに対してです。
最後までこの調子です。たまんないです。
私も「悪かったですね」口癖になってしまいそう、、、。
物語や本でなくても、人の日常なんて知らなくて当たり前で、自分が忙しかったりすると尚更。
自分の事で精一杯で、他人には関心は向かなかったり。
そんな中この本を読むと、想像でも良いから人の生活に歩み寄ってみたい。
なんて、自分らしくない自分に出会ってしまいました。
そんな優しくなれる一冊です。