心にぐっとくる本

ぐっとくる『森見登美彦~恋文の技術~』

こころにぐっとくる本

森見登美彦さん。好きです。

そんな私の告白なんてどうでもいいんですが・・・。

森見さんの作品ではじめて読んだのは「夜は短し歩けよ乙女」でした。

その時に感じた”ふわっ”っが忘れられず、もう、ずっとファンです。

いつも笑わせてくれます。

「恋文の技術」はもしかしたら一番好きな作品かもしれません。

いや、順位なんてつけられないんですが、森見さんの作品はファンタジーの小説が多い中、この作品は身近というか、いつもとちょっと違う作風で、親近感がわいてくるんです。

恋文の技術

まずは、構成にぐっときます。書簡体小説になっているんです。

書簡体小説(しょかんたいしょうせつ)とは、登場人物の手紙を連ねていくことで、ストーリーとして展開させてく形式です。

ストーリーは、京都の大学院生が能登の実験所に飛ばされ、そこから京都の友人家族に手紙を書く。というもの。

単純なんですが、時間の流れなどがしっかりしていて面白いです。

手紙のやり取りをしてるのを全部書いてるわけではなく、主人公から出したものを主に書いているんですが、 自分の動きや相手の動きが目に見れるような、漫画を読んでるみたいな感覚になります。

あとがきでご本人も言っているんですが、「夏目漱石の書簡集がおもしろかったので、とにかく真似してみようと思っただけなのです。」

そう、まねっこだったんです。

でも面白い!

その能登に飛ばされた主人公、守田一郎が結構な毒舌なんです。

それがまたおもしろくて、ぐっときてしまうんです。

守田が後輩の小松崎に出した手紙

君は相も変わらず不毛な大学生活を満喫しているとの由、まことに嬉しく思います。
その調子で、何の実りもない学生生活を満喫したまえ。希望を抱くから失望する。
大学という不毛の大地を開墾して収穫を得るには、命を懸けた覚悟が必要だ。
悪いことは言わんから、寝ておけ寝ておけ。

しょっぱなからこの言いようよ。

手紙に、相手を落とすことを書くかね普通。って笑ってしまいます。

後輩に「君」と書くところとか、「したまえ」という命令口調とかはなじみがなくて私には面白いんだよなぁ。

こんなこと言って、本当は心配してくれてるのかな?

と、裏を読んでみるけど、本当に他人事なんだな。と思える人柄もまた良いです。

守田が先輩にの大塚さんに出した手紙

手紙で「私のことを小馬鹿にしてるんじゃない?」とお書きですが、私ごとき虫けらが大塚さんを馬鹿にできるわけがないではありませんか。
そんなのは百万年も早い。守田一郎は大塚緋沙子大王の下僕にございます。

後輩に出した手紙とは打って変わってのへーこらした感じ。

守田くんがいかに上に弱くて下には強いかが出てていいです。

手紙は1対1だけど、普段からこうなんだろうな。守田くんは。と考えながら読んでしまいました。

以前家庭教師をしていた少年、まみやくんに出した手紙

まみやくんはどうしているかなと思って、手紙を書いてみることにしました。
あたらしい先生のいうことをきちんときいていますか。
きみは見どころのある少年だけれども、ちょっと気がちりやすい。
あと、なまけるくせもある。それに、いじわるなところもある。

小学生に対して、これまた結構な言いよう。

ちゃんと平仮名で書いてあるのも入り込みやすいです。

この小学生が結構なやつで、この先も面白い事をやってくるんです。

森見登美彦さんの小説に出てくる子供は、どこか大人で、私はそれが非常に好きです。

守田くんは森見登美彦に対しても手紙を出しています。

森見さんも机上で卑猥なことをへ思いを凝らされるばかりではなく、
たまには外に出て文化的生活を満喫されては如何でしょうか。

自分を登場させてしまってます。

さらに、サイン会などの情報まで放り込んできます。

さらにさらに、登場する女性たちがみんな森見さんのファンだという。

やりますね。

してやられた感があります。

こんな自由な小説は初めて。

守田くんは妹にも手紙を出します。

大学受験まであと一年だ。「ウルトラマンタロウ」を見るのもほどほどに。
「地球を守る仕事」も立派だが、とりあえず現在の成績を守れ。

どちらかというと、妹の方がすげえやつなんだなとわかります。

妹も結構やってくれます。

大学受験という事は、今現在が高校生ってことですが、ウルトラマンを見ている妹。

天然なんだか、計算なんだかわからない妹も最高です。

手紙の最後に自分の名前を書くところ。

・男のグローバルスタンダード 守田一郎
・果てしなくロープライス 守田一郎
・文通技術研究家 守田一郎
・守田恋愛相談室筆頭相談員 守田一郎

などなど。

これがいつも楽しみでした!

もう、もはや何なのかわからない。自分で自分を見失ってる感が笑ってしまいます。

細かい所まで面白い。なんだかにやついてしまう本です。

森見さんのお話は、京都を題材にしたものが多いですが、「恋文の技術」は、能登のゆったりした感じもあって、京都の情報もあって勉強になります。

この本を読んで、能登に行きたくなりました。

そして、行きました。

友達と金沢旅行をしたときに、わがままを言って能登まで。

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