テレビを見過ぎて、飽きて疲れて漫画を読み始めた。
そんな中読んだ漫画は、ちょっと強烈でした。
「海猿」や「ブラックジャックによろしく」の作者である佐藤秀峰さんによる「特攻の島」です。
「特攻の島」あらすじ
時代背景は太平洋戦争の末期。福岡海軍航空隊の予科練修正である主人公の渡辺が、特攻兵器である回転特別特攻隊に志願するところから話は始まります。
「特攻」とあるので、ずっとゼロ戦の話だと思ってました。
回天とは、一度出撃すると命はないと言う人間魚雷。潜水艦に詰まれ敵陣の近くまで行き発信させると言うもの。
回天に乗ることで「生」と「死」について葛藤する主人公と、その周りの人たちが描かれています。
この物語には実在した人物も登場しています。
・回天の創案者:黒木博司、仁科関夫
・海軍少佐:板倉光馬
・回天特攻隊:伊東修、有森文吉、勝山敦
など
主人公渡辺の年齢
主人公の渡辺が初めて回天の創案者の仁科に出会ったあとに、「俺たちと4、5歳しか変わらんぞ・・・」と言っています。
実際の仁科の年齢は、当時21歳です。
ということは、主人公の渡辺は15~16歳の設定なのでしょうか。年齢のことは書かれていませんが、おそらく10代であろうと推測。
初めて回天に搭乗した渡辺がこんなことを言っています。
俺だって志願してきた以上死ぬのは仕方ないってわかってる・・・
だけど回天を敵艦に当てるなんて・・・そうそう簡単な事じゃないぞ・・・
俺たちは命がけなんだ・・・命をかけるだけの意味をくれよ
10代で生と死について考えなければいけない時代だった。と言ってしまえばそれまでですが、あまりにも想像できない感情です。
さて、10代の頃の自分は何を考えていたかな?と。
フラフラしている18歳になる甥っ子に読ませたいな。と思ったけど、自分が18の頃に読んだらどう感じたかを考えたらやめようと思った。
今の年齢だからこそ、心に突き刺さるものがあるんじゃないかと思ったからです。
・・・なんですが、やっぱりそうじゃない。
若いから読んだ方が良いのかもしれない。
生きる意味と葛藤
物語の中では渡辺の葛藤が多く描かれ、生きる意味を自分に問い続けています。
何を描けばいい・・・?
俺のやりたい事は・・・
一体 何だ・・・?
軍人になると決めた渡辺に、「お前の見た風景を描いて戻ってきたら見せておくれ」と母が送ったのが画帳。
母に見せられる風景がないという事なのかな。
環境が全然違いますが、「自分が何になりたいか」と悩むのは今の若者と変わらないのかもしれない。
今の若者の気持ちは分からないけどね。自分が10代の頃はそう思ってたな。と思って。
生きていればそれでいいのかな・・・?
俺は死が怖い・・・
理由は 意味を見つけられないからだ・・・
もしも死ぬ事に何か意味を見いだせれば・・・
死は単なる恐怖ではないはずだ・・・
そして 死に意味を見つけられるのは・・・
生きる意味を見つけられる人間だけなのかも知れない・・・
回天に乗りたがる連中を見て、「むじゃきなもんだ 死ぬための訓練だぞ」と関口が言ったことに対して返したセリフです。
深すぎです。
すごい死生観です。
なにも言葉にできません。
俺には何もありません・・・
生きる理由も・・・
死ぬ理由も・・・
このまま死んだように生きたくはありません・・・
仁科に言ったセリフです。
全然環境は違いますが、初めて「このままなら・・・いっそ!」と思ったことがあります。
腎臓と肺を同時に炎症を起こしてしまい、熱が40度から下がらなかったことがありました。
痛いし動けないし、あまりにも苦しくて、いまだに忘れられない自分の中の感情なんですが、肉体的な苦しみよりももっと苦しいんじゃないかなってなりました。
色んな事がそうだけど、頭で考えた方が辛いんだな。
もうさ、健全じゃないよね。
もっと殴ってくれよ・・・
実感したいんだ・・・生きてるってことを・・・
痛みを感じさせてくれないか・・・?
まだ死んでないってことを実感したいんだ
回天に乗ることが決まり一時実家に戻ったとき、いじめられていた同級生と遭遇し殴られるシーンです。
その後列車の中で渡辺は「母ちゃん」と物語の中で初めて涙を流します。
本当は辛いに決まってる。
でも、そんなことまでも口にできない時代だったと思うと胸が苦しくなります。
オレは・・・何のために死ねばよいんだ・・・?
何のために生きているんだ・・・?
何で産まれたんだ・・・?
何で死ぬ事になったんだ・・・!?
家族に向けて遺書を書こうとした友人の関口でしたが、「自分の命で家族が助かるなら、でももしそうじゃなかったら。」何を書いて良いか分からない。と関口。
いつも冷静な関口ですがやはり葛藤を繰り返しています。
この後も様々な展開で生きる意味を探していくわけですが、かなり濃いです。
「テレビ見飽きた~」っていって読むマンガじゃなかったです。
最後、正座してました。
何だろう。読んでて苦しくなっていくんです。
主人公の気持ちがこっちにもガンガン伝わってくると言うか、うっかり憑依してしまうんじゃないかってくらい苦しい。
生きる意味について考えたら寝られなくなった。
「特攻の島」を読んで
そう言えば、ふと思い出したことがありました。
もう10年以上前になりますが、同級生がドイツに赴任になったので観光を兼ねて会いに行ったことがあります。
仲が良いとは言うもの、そういった類の話を真剣にするようなタイプではなかったんですが、なぜか「寄付」について話したのを覚えています。
その寄付金の行き先は本当に正しい場所に行くのか、寄付とは善意なのか、自己満足なのか。
そんな話だったと記憶しています。まあ、お酒も入っていたので心にあったことが出たんだろうとも思いますが。
そんな友人が言っていたことが頭に浮かんできました。
「善意でも良いし自己満足でも良い。もしかしたら行き先は正しくないかもしれないけど、一番大切なのはそのことを忘れないってことじゃないかな。何かをしたいっていう感情も大切だけど、頭に入れておくことで自分たちが今幸せなのがわかるんじゃないかな」
何についての寄付の話だったかは覚えていないんですが、「そうね、忘れないっていうのは大切よね」と思ったことも覚えています。
アウシュビッツに行ったとも言っていたので、色々考えて思ってたのかもしれません。
「特攻の島」でも
忘れないでくれ オレのことを・・・
オレ達がここにいたことを・・・
と最後に出てきます。
私たちにできることは知ることだとも思う。
知ること。それを忘れないこと。
これ、当たり前じゃんって思うかもしれないけど、忘れてはいけないと言うのを忘れてしまうこともあると思うんだよな。
あともう一つ。
伝えていくという事。
どんな形でもいいから、伝えていくという事。
やっぱり甥っ子にこの漫画をプレゼントしよう。
※「特攻の島」は全9巻です。