心にぐっとくる本

西加奈子さんの短編集【炎上する君】は独特でぐっときた

こころにぐっとくる本

久しぶりに何かサクッと読めて笑えるような、ワクワクするようなものが読みたいと思った。

で、手に取ったのが西加奈子さんでした。

読み始めて「おっ!これは正解だったかも」と思いましたが、読んでいくうちに何だか考え込んでしまいました。

西加奈子『炎上する君』

西加奈子さんの「炎上する君」は、2008年~2009年にエンターテイメント小説誌「野性時代」に載せられた短編と、書き下ろした作品を集めた短編集です。

・太陽の上
・空を待つ
・甘い果実
・炎上する君
・トロフィーワイフ
・私のお尻
・船の街
・ある風船の落下

 

1作品は20ページ程度なので読みやすいです。サクサク読めます。

ただ、ものすごく独特なので、感覚として分かる作品と分からない作品があるという印象でした。

なんでそんなシチュエーションを考えられるんだ!というほど独特。

最初読んでいると「?」という話もあるんですが、「なるほど」となるのは感覚的なところでもあって、最後に「あぁ、そうか(*´ω`*)」となると気持ちがいい。そんな話しもありました。

考え込んでしまったのは、途中であることに気付いたからです。

「この短編の主人公たちは病んでいる」

どうやらそういう類の本だったみたいで、読む前に何も情報を得ない私は知りませんでした。

物語の大半は少し心が疲れている主人公がいて、いつしか光の方へ向かって歩いていくような、そんな内容です。

そういう風な気持ちになったことのある私は、この本のいろいろな文章が心に入ってきてグッときてしまいました。

『太陽の上』

あなたは、太陽の上に住んでいる。

という出だしです。

新しい感じだな。と思い読み始めたのですが、「太陽」という中華料理屋の上に住んでいる、外に出られなくなった「あなた」の物語です。

あなたは三年前から、外に出ることをやめてしまった。三年前のあなたは、とても、疲れていた。その疲れのため、選択する、ということを、面倒くさい、と思うようになった。

そんな「あなた」という呼び方が、本当に私のことを言っているんじゃないかと思い、数ページでのめり込んでしまいました。

いや、私は外に出ることはやめてはいませんが、そういう時もある。

疲れて、週末の丸々2日間、外に出ないときもあるな。と思ったし、ふと、急に疲れがやってくることもあります。

だから「あぁ、少しわかるなぁ」と感傷に浸ってしまったのです。

この三年間であなたが一番得意になったことは、あきらめることだ。
~省略~
でも今、数々の「あきらめ切れなかった」事々を思い出し、あなたは不思議に思う。

ハッとしました。

最近、諦めるの早いな。て自分で思っていたから。

色々な事に執着しなくなった。という方が正しいのかもしれませんが、「あの時なんであんなに諦めきれなかったんだろう」って思うこともあるからです。

まぁ、これは年齢的なこともあるんだと思いますが、なんだかやっぱり自分のことのよう。

この話は「太陽」を営む夫婦やアルバイトの子も少々出てきます。

『空を待つ』

「空を待つ」の主人公は、ある日携帯電話を拾ってそのまま持って帰ってきてしまう作家です。そしてその携帯電話でメールのやり取りをするお話です。

打ち合わせは、いつも新宿と決めている。人が多いから好きだ。すれ違う人すれ違う人の顔をじっと見続けて、思考に完全に蓋をしてしまう。そうなるとこっちのもので、ぶつかろうが、舌打ちをされようが、相手を木や石のように思えるようになる。
私は今、完全にひとりで、ひとりぼっちで、世界を泳いでいる。そんな気になる。
その思いは、部屋にいるときより、ずっと強く、深い。

う~わぁ~、分かるわぁ~。となった私は病んでいるのだろうか。

大自然の中で一人になった自分も好きですが、人込みの中に一人でいる自分もけっこう好きです。

別に一人が好きとか、そういうのではないですが、人が多い場所にいると一人を感じます。

二人や三人でいるときよりも、気を使わなくていい自分が気持ちがいいというか、誰も自分のことを気にしてない気持ちよさというか。

でも、この話の中で主人公は、少しずつ気持ちが変わっていき、ひとりぼっちでいたくなくなります。

『炎上する君』

足が燃えている男を探す話です。

はぁ?となりますよね。

独特です。「ぶっ飛んでいる」という感じではないんですが、独特です。

でも、この短編集の中で好きな話です。

「梨田よ、足が炎上している男の話をしっているか。」

このセリフを読んで、男の人の会話だと最初思いました。

でも、30代女性二人の物語でした。

一人は真ん中訳のお下げで三つ編みの浜中、一人はおかっぱ頭の梨田。

浜中が梨田に言います。

「梨田よ、君とバンドを組みたい。」

想像してしまったら、もう二人のことが好きになってしまいました。

二人の会話は女の子のものとはかけ離れていて、それはこの物語の面白いところでもありますが、そこが変化していく様もなんだかかわいらしくて「ふふっ」っと笑ってしまいます。

 

久しぶりに読んだ西さんの世界に、またもやはまりそうです。

ちなみに、私が読んだのは単行本だったんですが、文庫本では又吉さんの解説がついているそうです。

明日にでも文庫も手に取ってみようと思います。

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