心にぐっとくる本

ぐっとくる『森見登美彦~ペンギン・ハイウェイ~』は名言ぞろい

こころにぐっとくる本

森見登美彦さんの文章や言い回し、言葉のチョイス、登場人物のキャラクター、いろいろ好きで読んでいるんですが、今回の「ペンギンハイウェイ」は名言ぞろいでした。

前作の「恋文の技術」とは”主人公がおっぱい好き”であることを除いては全く違う一冊です。

今までの森見登美彦作品ではなかった!

森見さんの作品はまだまだ、ぐっとくる本がありますが、今回は2010年に日本SF大賞受賞した「ペンギンハイウェイ」の名言を紹介したいと思います。

「ペンギン・ハイウェイ」あらすじ

郊外の街に住む少し大人びた小学4年生のアオヤマくん。ある朝、妹と登校中、空き地の奥の草原にペンギンがいるのを発見します。ペンギンたちはトラックで運ばれたものの、なぜか途中で一羽残らず消えてしまったのです。そしてまた、街に現れたのです。ペンギンの謎を調査するアオヤマ君たちですが、不思議なことに、ペンギンは歯医者のお姉さんが出現させていたのです。

なぜペンギンが出せるのか分からない歯医者のお姉さんと共に実験を始めるアオヤマ君。果たして謎は解けるのでしょうか。

普段本を読むときに話題になるものを読むこともあるんですが、友達から「これいいよ」って紹介されたり、好きな作家さんで読んだりすることの方が多いんです。

そして、口コミとか、あらすじとかはほとんど見ないで読み始める事がほぼでして💦

「ペンギン・ハイウェイ」はもちろん、森見さんの作品だから読んだんですが、このときも、本の後ろに書いてある解説やあらすじも読まないまま読み始めてました。

読み始めは普通の(普通ではないんですが)小学生、アオヤマくんの日常からで、読み終えてから、これは壮大なSFの壮大な物語だった。とその時初めて知りました。

読み終えてから、森見さんの言葉を知りました。



「ペンギンハイウェイ」森見登美彦さんの解説

「ペンギン・ハイウェイ」は、わかりやすくいえば、郊外住宅地を舞台にして未知との遭遇を描こうとした小説です。スタニスワフ・レム「ソラリス」がたいへん好きなので、あの小説が美しく構築していたように、人間が理解できる領域と、人間に理解できない領域の境界線を描いてみようと思いました。郊外に生きる少年が全力を尽くして世界の果てに到達しようとする物語です。自分が幼かった頃に考えていた根源的な疑問や、欲望や夢を一つ残らず詰め込みました。(森見登美彦)

そうか。読み終えたからこそ理解できる。

そして、「森見登美彦、新境地。」と言われた理由もわかりました。

いつもの京都も出てこない。

いつものふわふわ感も出てこない。

いつものちょっとスケベな大人も出てこない。

主人公は小学生。

そんな「ペンギン・ハイウェイ」もぐっときます。

「ペンギンハイウェイ」出だしがすでに名言

ぼくはたいへん頭が良く、しかも努力をおこたらずに勉強するのである。
だから、将来はきっと偉い人間になるだろう。

主人公は小学生4年生なんだけど、偏屈な人間の物語としては一緒か。

と思って読み始めたあの頃。

しかし、すぐあとに「おっ!ちがうぞ」と思わされました。

他人に負けるのは恥ずかしいことではないが、
昨日の自分に負けるのは恥ずかしいことだ。

良い事言う少年。

読み始めてすぐ「ウッ」となってしまいました。

本当に、私も自分に言い聞かせてやりたい!

でも、アオヤマ君は偏屈には変わりがないかもしれません。そんな内容が続いてます。

アオヤマくんが歯医者へ通う理由

ぼくが歯医者へ通う理由は、ぼくの脳がたいへんよく働くからである。
ぼくの脳はエネルギーをたくさん使う。脳のエネルギー源は糖分だ。そういうわけで、甘いお菓子をついつい食べ過ぎてしまう。
それなら寝る前にきちんと歯をみがけばよいのだけれど、なにしろ脳をよく働かすから、夜になると歯ブラシも持てないぐらい眠くなって、歯をみがいているひまがないのである。

名言と言うより、名言い訳である。

昔よく「向かい風が強くて」とか「台湾だと間に合ってるんだけど」などと遅刻の言い訳をしていましたが、こんなハイレベルな言い訳はなかったな。

エビデンスのある言い訳を考えようと思いました。

クラスメイトのスズキくんについて

スズキ君は、ぼくらのクラスでもっとも声が大きくて力が強い。
スズキ君配下の男子たちはスズキ君に絶対服従である。
その仕組みが興味深いので、ぼくは「スズキ君帝国観察日記」をつけて研究を重ねている。

クラスメイトには、スズキくん、ウチダくん、ハマモトさん、などと言ったキャストがいます。

この中で、一緒に行動するようになるウチダくんとハマモトさんですが、スズキくんは対立します。

ちなみに、スズキ君はいじわるで、ハマモトさんは自信家で、ウチダくんはときどき寡黙です。

ちょっとだけいつもの森見ワールドが出てきている感です。

小学生がクラスメイトを観察して、そのことについて日記に付けて観察してるんですよ!

おもしろい。私の頭の中にはそんな発想がないなぁ。

そして、スズキ君のいじわるに対し、素晴らしいことを言っています。

スズキ君は間違っていると思う。なぜならば、自分の満足のためにほかの人にがまんしてもらうには、それなりの理由と手続きが必要だが、スズキ君たちは正当な理由も持たず、またその手続きを踏んでもいないからだ。

素晴らしいよね。

自分を見つめなおしました(。-∀-)

ウチダくんに向かって言うセリフ

「怒りそうになったらおっぱいのことを考えたらいいよ。
そうすると心がたいへん平和になるんだ」

ペンギンの調査中に、ウチダくんと二人でスズキくんに乱暴にされ、ウチダくんだけ逃げきれてしまい、その後教室でウチダくんから「怒ってるかい?」と聞かれた主人公。

「5歳から怒ってない」と言い、その後に放ったセリフです。

これも森見さんですね。いつもの森見さんです。

よっ!出ました名言!!

って感じですよねぇ。しかも、「ずっと考えているわけではない、毎日30分くらいだ」というアオヤマ君。

大人な子供を書かせたら最高だわ。

もしかしたら、森見さん自身がそうだったのか?と想像してしまいます。

 

この前に、スズキ君たちに乱暴されたアオヤマ君は自動販売機に縛られてしまいますが、アオヤマ君がノートに書いた言葉も素敵でした。

空はこんなに青いのに、ぼくはこうして一人ぼっちで、乳歯をぐらぐらさせ、大人への階段をのぼっていく!

自分で「詩の才能があるかもしれない」と思っているアオヤマ君。素敵だぜ(。-∀-)

お父さんの言葉

アオヤマくん(主人公)のお父さんがまた素敵なんです。

アオヤマ君のお父さんは、アオヤマ君に問題の解き方を教えるときに、役立つ3つのことも教えてくれています。

・問題を分けて小さくする
・問題を見る角度を変える
・似ている問題を探す

「それでも分からない時は?」とアオヤマ君に聞かれ、スイッチを例に挙げます。

家に帰ってもスイッチを押したが電気がつかない。スイッチが壊れているのかもしれないが、停電だとしたらスイッチが問題ではない。と。

「スイッチがこわれていると思って、スイッチをいっしょうけんめい研究しても答えは得られないだろう」

「まず、問題は何か、ということをよく知らないといけない」

他の部屋の電気がつくか調べる。家のブレーカーかもしれない。お隣はどうだろう。調べて行くと本当の問題が分かってくる。というアオヤマ君のお父さん。

問題が何か、ということが分かるのは、たいてい何度も間違ったあとだ。でも訓練を積んだ人は、だんだんそれを見つけ出すのが上手になる

ペンギンハイウェイの中で、アオヤマ君のお父さんは何の仕事をしているかは書かれていませんが、研究者のような気もしますよね。

次は、ペンギンの研究が複雑になり少し悩んでいるアオヤマくんに言うセリフです。

「大きな紙に関係のあるところをぜんぶメモしなさい。ふしぎに思うことや、発見した小さなことをね。
大事なことは紙は一枚にすること。それから、できるだけ小さな字で書くこと。」

「大事なことがぜんぶ一目で見られるようにだよ。そのようにして何度も何度も眺める。
どのメモとどのメモが関係あるのか、いろいろな組み合わせを頭の中で考える。
ずっと考える。ごはんを食べるときも、歩いているときも。
書いたメモが頭の中でいつも自由に飛びまわるようになる。そしたら、毎日よく眠る」

これを読んだとき、ちょっとはっとしました。

大人になって、そうやって考えるってやってなかったなぁ。と

いや、小学生のときもやってなかったですが、だからこそなんですが、働いててもまとめて考えるって大切ですが、そういう単純なやり方でいいんだ!!と。

いつも、複雑に考えすぎてて、むしろそのやり方の方が自分でもわかりやすいな。ということを教わりました。

現在、本当にこのやり方で考えをまとめています。

さすが京大出身だわ。森見先生!

「それでもわからないときは?」と聞かれて

「そういうときは、わかるまで遊んでいればいいさ。遊ぶほうがいいときもあるんだよ」

どこかで似たようなことを聞いたことがある。

黒いワンピースを着て、赤い大きいリボンを頭につけたどこかの小さな魔女が、森の絵描きの家に泊まりに行ったときに聞いたような。

しかしながら、私は、諦めるのが早すぎるな。と思ってしまいます。

まとめ

ペンギンハイウェイには、クラスメイトはもちろん、歯医者のお姉さんやハマモトさんのお父さんもでてきます。

歯医者のお姉さんは重要な登場人物でペンギンの謎に関係していますが、アオヤマ君とのやり取りも面白い。

「いや、君、オトナじゃないだろ」
「夜中というのはすごい神秘の世界よ。まあ、子どもは知らんでいいことよ」
「さっさと眠って、大きくおなり」
「この謎を解いてごらん。どうだ。君にはできるか」
「そうか。君は科学の子か」
「大人だからウソをつくのだ」

そんな素敵なセリフもお姉さんの魅力です。

それぞれのキャラクターも素敵なので、その辺も楽しみながら読める本です。

小さな少年の壮大な研究物語。 そんでもって、何かの研究がしたくなります!!

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