心にぐっとくる本

【シャクルトンに消された男たち】ずさん過ぎる探検は人間味があって切ない

こころにぐっとくる本

ここのところ、シャクルトンについての本を読んでいます。

「シャクルトンの大漂流」(絵本)「そして、奇跡は起こった」を読んでから、この本「シャクルトンに消された男たち」を読むという流れは正解だったな。と一人で納得しています。

しかしながら、とにかく読みにくい。文字が小さいとか本が厚いとかという事ではないのですが、言葉が頭の中に入ってこない感じ。

350ページほどで、「2~3日で読み終えるかな」と思っていましたが、1週間近くかかってしまいました。

それでも読み続けてしまうのは、本当にあった話だからなのだろうか。なんだか読むのを止められないのです。

そして、最後は切なくなってしまいました。

『シャクルトンに消された男たち』ザっとしたあらすじ

本隊の食糧基地設営のため南極を逆から極点にむかった男たちがいた。ロス海支隊―。彼らは任務完遂の後、その帰路で力尽きた。英雄伝説の陰に消えた男たちの極限ドラマ。

amazonより引用

およそ100年前、1911年に初めて南極大陸の南極点到達をしたノルウェーのアムンセン。競い合っていたのがイギリスのスコット。同時にその時代の南極探検にて有名だったのがシャクルトンです。

出遅れたシャクルトンは未踏の地を切り開くべく、初めて南極大陸を横断しようと「帝国南極横断探検隊」としてエンデュアランス号で旅立ちます。

しかし、南極大陸を横断するには物資や食料は足りない。そこで反対側から「補給ポイントを設営する」と言う目的で別の隊「ロス支援隊」を派遣します(オーロラ号)。

このロス支援隊こそが「シャクルトンに消された男たち」の主人公たちです。

シャクルトンはエンデュアランス号で遭難してしまいすが、全員が無事に帰還したことで英雄とされました。

しかし、その陰に隠れてしまったロス支援隊はその話はほとんど表に出なかったんだそう。

出発前から困難なオーロラ号

「そして、奇跡は起こった」では、シャクルトンがエンデュアランス号や人員の用意について細かく記載されていますが、この「シャクルトンに消された男たち」にも、オーロラ号や人員、犬のことについて書かれています。

(オーロラ号を用意する前のことも書かれているので、流れが分かりやすい)

まず、用意された船がボロボロなのです。

まるで航海に適さない船を目の当たりにしてショックを受けた。「船はいたるところで水漏れし、デッキの水がキャビンと船倉にどっと流れ込んでいた」と彼は、ロンドンの探検事務局宛てに書いている。

オーロラ号指揮官~マッキントッシュ~

シャクルトンはその船を見もしないで購入したとも記載されています。

前回「そして、奇跡は起こった」を読んで思ったのは、シャクルトンからリーダーシップとして学べるというのは本当だろうか?という疑念。

まぁ、あとがきなどで少し納得したものの、やはりシャクルトンに対し「適当すぎるのでは?」と思うことが多いです。

オーロラ号を指揮官であるマッキントッシュにすべて任せ、後は指示書だけなのである。その指示に行かないとシャクルトンたちが遭難してしまうのではないか。と、準備も不足の中旅立つのです。

あ、そうか。リーダーとしては学べるかもしれないが、経営者タイプではないという事か。とかとか、勝手に想像しています。

そして、船員のほとんどが新米で、さらに隊員不足ということ。

さらにさらに、資金不足。

一緒に連れて行く犬たちも寄せ集めであるという。非常にずさんな計画なのです。

100年前とは、こんなものなのだろうか?現代の冒険には絶対にない計画の仕方です。

細かいことは気にしないのか?・・・ワカチコ。

この辺りで、「そんな薄汚れた冒険は聞きたくない!」と。読みにくいので読むのを止めようかとも思いました。

でも、止められないんです。

シャクルトンの有名な広告文はウソ!?

シャクルトンと言うと有名な広告文があります。エデュアランス号の船員を募集した時に新聞に出したというものです。

冒険に行きたい男子を求む。収入少。極寒。まったく太陽を見ない日々が数カ月続く。危険が多く、生還の保証はない。成功した場合にのみ、名誉と賞賛を得る。

「そして、奇跡は起こった」より引用

英文から和訳されるので本によっては言葉が少し変わることもあるかもしれませんが、「シャクルトンに消された男たち」によると、この有名な広告文ではなかったとのこと。

有名な広告が実在した証拠がないんだそう。

実際に残されているのは、シャクルトンが新聞の主筆宛てに書いた手紙で、このような文面ではなかったとも書かれています。

・・・え!!?

「カッコイイ!」と思った私の気持ちよ!!

こういった真実を知れるのも、そのもの(そのこと、その人)に対して数冊読むと面白いな。と思うところです。

犬たちについて

シャクルトンのことを書いているノンフィクション「そして、奇跡は起こった」よりも犬に関しては細かく記載されてます。

急ぐあまり、犬たちは訓練もしないまま南極の大地を走らされるのですが、とにかく痛々しい。

ロス支援隊は設営を作るために隊を分けますが、犬に対しても扱いが違います。

犬がこの設営に必要だと考え大切に扱うチームに対し、とにかく走らせるために鞭を打つチーム。

犬の扱いに対しても仲間割れをして、気持ちがバラバラになって行くロス支援隊。

こういったことも細かく書かれていて、本当に本当のことを知れる内容になっています。

そこもまた、おもしろいと思わされる部分でもあります。

やはり、カッコイイ夢のような冒険だけではなく、複雑な人間模様も書かれている方がリアルで、裏舞台ものぞけるような、そんな感覚です。

ロス支援隊の気持ち

彼らが残した手紙や日記などを参考に書かれているので、本当に過酷な旅だったんだというのが分かります。

あぁ、人間とはとことんまで行くと壊れるんだな。というのも伝わってくる。

マイナス40度や50度の極寒の地で、ビタミン欠乏でなる壊血病、凍傷、低体温症、脱水症状、様々な体の変化を感じるとともに気持ちも保てなくなっていきます。

「いったいわたしはここで何をしているのだろう?」

「考えてみると、こんな異様な状況があるだろうか?われわれはいったい、何に血道を上げているのだろう?」

普段から「私なにやってるんだろう」と思ってしまう私からしたら、過酷な環境の中で1年以上耐え抜いた彼らは屈強だ。

ビタミンCだけでなく、ビタミンB群やその他の栄養素も足りなく、そのような症状が起こったとも記載されていました。

しかしながら、徐々に壊れていく姿は心が痛くなります。

人間とは、むごくて、はかなくて、切ない。

 

この本がイイのは、細かく記載されているという事。

助け出される前のシャクルトンの状況や、帰還してからの彼らのことも書かれています。

人間関係や人間性、お金のこと、家族のことなどについても詳しく書かれているところは何とも現実味があり、他人事なんだけど読んでいて切なくなることもある。

この本によると史上初の南極大陸横断は、世界で初めてエベレストの頂上を踏んだエドモンドヒラリーと科学者のヴィヴィアンフックスだそうだ。

ヒラリーと言えば、私は昔、漫画の「岳」にはまりエベレストのことを妙に調べたことがあり、夢枕獏の「神々の山嶺」に興奮した記憶があります。

岡田君の格好良さを確認すべく、映画の「神々の山嶺」でも再度見ようかな。

自然に対する人間の冒険心は面白い。

しかし、その中身を細かく知ってしまうと、なんとも切なくなります。

ワクワク感やドキドキ感とは違いますが、冒険のバックヤードを覗ける一冊だと思います。

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