西加奈子さんの本で初めて読んだのが、この「きりこについて」でした。
西加奈子さんは「サラバ」で植木賞を受賞して、ご自身もTVで見かけたことがあります。
芸人さんがお勧めしていて、ネットでも「なんだか面白い」と話題になっている作家さん。
これだけ話題になってたら読むしかないでしょ。と読みだしたのがきっかけです。
衝撃的でした。
きりこついて
「きりこについて」は、2009年の作品で、文庫では10作品目。
こんなに本を出されているのに、今まで私は何をしてたんだ。と思ってしまいました。
物語はこどものきりこからはじまります。
登場人物はきりこ。
両親と猫。
徐々に増えていきますが、その都度キャラが濃いので「これ誰だっけ」とはなりません。
まず、出だしが何とも言ません。
出だし
きりこは、ぶすである。
いきなり、ぶす発言。
鹿児島出身のきりりと彫りの深い顔のパァパと、歯並び以外はほとんど完璧な顔立ちのマァマとの間に生まれた「きりこ」のことなんですが、両親の遺伝子の悪い部分をもらってしまってぶすであるという事。
しかし、可愛いと育てられたため、自分は可愛くて愛される人間だと育ってしまいます。
そして、飼っている猫「ラムセス2世」がIQ740に達し、人間の言葉をしゃべろうと試みています。
そんなラムセス2世が、きりこと同級生たちがおままごとをしていて、きりこがお母さん役をするというところ。
ラムセス2世の心の叫び
「なんで猫の役をやらんの」とおっもったのだ。
猫!猫なら、足先からふわあっと血がたぎるような「爪とぎ」や、湖のように安らかな気持ちになれる、「丸くなって眠る」や、いつ気を失うか分からないスリルが味わえる、「肛門を舐める」などという遊びが出来るのに!
なんていう言い方!!思わず笑ってしまいました。
読みやすいしサラサラと読んでしまっているんですが、いきなり現れるこの表現の仕方。
思わず読み返してまで笑ってしまいます。
そして、きりこが嫉妬してラムセス2世を乱暴に扱う場面があるんです。
ですが、この時も「ねこどことんでゆくごっこ」と、遊んでもらってるという意識なんです。
「きりこさん、また、あの遊び、やりましょね。」
何だかほわっとします。
投げられてるのに遊びと言ってしまってる。・・・ネコが。
こんなこと言われたら愛しすぎて悩んでるのもバカらしくなってしまいます。
そして、きりこが可愛がられている表現も何とも言えない
きりこのこと
きりこは両親の愛情にひたひたと浸っていた。通常の人間ならのぼせてふやけて貧血になり、扇風機の前で気絶してしまっているところだが、「きりこ」は頑丈だった。愛情を受け取っても受け取ってもへこたれない、鉄のような素晴らしい体と心を持っていたのだ。
いかに「きりこ」が強いかがわかります。
というか、「愛情に対して強い」というイメージが、なるほど。と思った瞬間でした。
でも、こんな風な表現を初めてみました。何だかそれだけでも衝撃的というか、言葉というより表現の仕方にぐっと来てしまう一節です。
その後の「きりこ」の服装についての表現も面白いです。
皆がグレーや紺着ている中、レモンイエローなどという、とちくるった色のドレスを着ているため、入園式の写真の数十倍のインパクトがある。頭に結んだ、ドレスと同じレモンイエローの大きなリボンのせいか、きりこの頭は、相当な変わり者の芸術家から贈られた、理解不能な岩石の彫刻のように見える。タイトルは『この世の果て』とか、なんとか。
これも、その様子がいかに奇怪なものなんかが手に取るようにわかりますが、その言い方。
何ていう表現の仕方をするんだ!と感心してしまいます。
この世の果て・・・。洋服をこう例えてしまう。
ないなぁ。ない発想だなぁ。
中盤までは、きりことラムセス2世ときりこの同級生たちとのほのぼのさが書かれているんですが、実は思ったよりも壮大な物語だったと知りました。
きりこが恋をしたり、実は自分はぶすであることを知り引きこもってしまったり、同級生や幼馴染が大人になるまでが書かれています。
その中で「人間とは何か」「どう生きるか」「何が正しくて何が間違っているのか」
子どもから大人になるにつれて分かること。気付くことができるのか。
自分のしたいことを、叶えてあげるんは、自分しかおらん。
これは、きりこが自分自身に対しても、言いきかせた言葉だった。
「ぶすやのに、あんな服着て。」
あんな言葉に屈することはなかった。
こう見ると深い感じがしますが、あくまでも、深い中に笑いがあり、さらっと書いているところがまた良いです。
子どもの頃に感じた想いや嫌な思い出は、実は気付くのには大切な事だったんじゃないかな。
そう思わされました。そうやって、人間は自分を成長させていくんじゃないかな。
それでもあくまでも、この作品においては笑いの中にあるような気がします。
西さんは、そんな感覚を持っている人なんだと思いました。