心にぐっとくる漫画

いくえみ綾【愛があればいーのだ】卒業写真が聞きたくなる

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「愛があればいーのだ」は、それまで読んできたいくえみ綾さんの学生の恋愛でキュンキュンするようなのとはちょっと違くて、私は好きでよく読み返していました。

男性目線なのも良い。

奥田民生を感じられるのも良い。

久しぶりに読み返したら、ユーミンの「卒業写真」が頭から離れません。

※注意:ネタバレありです。

【愛があればいーのだ】ざっとしたあらすじ

バラエティ番組の新人AD由輝。あるとき「何事も経験」とドラマ班に移動します。そこで再会するのが、かつて思いを寄せていた同級生の美津子。
2人で会って良い感じになると思いきや、美津子のマネージャーから「いい友達でいてやってください」と言われてしまう。そんな由輝は隣人のるみさんと仲を深めていくが、まだ美津子のことで頭がいっぱいだった。そして美津子は、不倫騒動でドラマの話が流れてしまいます。

「愛があればいーのだ」は、21歳で新人ADとして働く由輝がメインで物語が進んでいきますが、高校時代のころの思い出が度々回想されます。

美津子は暗かった高校時代を「あのころのアタシはアタシじゃないんです」と。そんな中で由輝と再会し、後に、「ユーミンの卒業写真の気持ちだった」と言います。

変わっていく自分と、変わる前の自分。

この物語は、まさにユーミンの「卒業写真」だと思う。

【愛があればいーのだ】主な登場人物

水谷 由輝(みずたによしき)主人公の新人AD。
藤井寺 美津子(ふじいでらみつこ)芸名は藤谷弥子。女優。
吉田 るみ(よしだるみ)由輝のアパートの隣人。彼氏が暴君。
永田(ながた)由輝の上司。プロデューサー?ディレクター?
晴(はる)由輝と美津子の高校の頃の同級生
浜田(はまだ)由輝と美津子の高校の頃の同級生

るみさんは由輝の9個上って出てくるから年齢が分かるんですが、永田さんの年齢は分かりません。(由輝は21歳)

途中で「永田さんと同じくらいくらいじゃないスか?」というセリフもあるので30前後何だと思うんですが、永田さんが大人なのである。

それと比べて成長過程の由輝が良いんだよ。

【愛があればいーのだ】1巻

由輝はホワっとした性格なのか、遅刻をしたり現場を間違えることがあります。笑顔の青年かと思いきや、余計な一言を言ってしまったり口の悪いところもあって、大人になりきれていない青年の感じが伝わってきます。

この話は、そこが良いんだと思ったり。

大人の優しさとか、優しい人とかじゃなくて、まだ子供の要素を持った青年で成長過程。

学生の頃に読んでた時は「恋愛」って観点でしか見てなかったけど、大人になって読むと成長の過程って部分で読み取っちゃう。

隣に住むるみさんには彼氏がいるんですが、その彼氏が暴君で、度々アザを見てしまう由輝。

恋愛も燃えちゃうとね
相手に100の欠点があっても
1の愛すべきところで許せちゃうのよ
それが弱みならなお更ね

とるみさん。

そんなるみさんは、由輝が担当しているバラエティー番組の「さみしい女の子募集」というのに募集します。

しかし、由輝はドラマ班に移動してしまいます。そこで由輝は美津子と再会します。

うかつにも17の頃を思い出した
あの2人だけの
ぼくだけに向けられた笑顔の頃だ

2人で会って、食事をして、昔の話をして、美津子に「あの子水谷くんを好きだったのよ」と言われ

・・・おれ、
ほかの女は見えてなかったからね

と由輝。

美津子に茶化されながら、「藤井寺は?」と聞く由輝に対し

・・・・・・今は
別の人

と美津子。

美津子のことを期待したり、マネージャーに「いい友達でいてください」と言われたり。

かまってくるるみさんとの距離が近くなるのですが、頭の中では美津子のことが離れない由輝なのです。

【愛があればいーのだ】2巻

不倫騒動があった美津子。マネージャーが連絡が取れないと由輝のところに来るが、何も知らない由輝。

帰宅するとソコには髪を短く切った美津子が。

「誰も知らないところでゆっくりしたくて」「1人がやだから」と言った美津子の手紙。

この世界で私はいっしょうけんめいでした
今もいっしょうけんめいです
私は自分をすてるといいました
自分は暗くて人にあまり好かれないとおもっていたからむりもしました

私にとってあなたは過去の人でした

正直いってほんとうに忘れかけていました

ここにはいろんなことがありすぎて
うれしーこともいやなことも

あなたをみると
今の自分はドロドロだと
うそばっかりのきたない女だと
みえないだれかにいわれているようでつらくなる
だからあなたがきらいです

由輝の家のティッシュの箱や封筒やパジャマに、書いてあるんです。

ドラマチックである。

高校でも大学でも、卒業して就職して一生懸命になりますよね。

一生懸命で忘れかけたあの頃。

学生時代だけじゃなくて働き出したあの頃も思い出してしまう。

強引にとめてくれたのがうれしかった。前髪をあげれと私にいってときみたいに
よしき私は

嫌いだけど、裏には嬉しいとか好きとかあるんだよ。たまんないね。

学生の頃の恋愛は好きか嫌いかだったかもしれないけど、大人の「好きだけど嫌い」「嫌いだけど好き」が良い。

めんどくさい感情が上手い。

その後、無理やり美津子に会いに行く由輝。

なんだかんだで2人は思い合うのですが、美津子は仕事のたびに吐きそうになってしまいます。

そこで出てくるのが同級生の晴と浜田なのです。

懐かしいと思う気持ち。あの頃の自分と今の自分。全部自分だということ。

この物語は、まさに「卒業写真」である。

最後に車の中からるみさんに声を掛けられる由輝ですが、のぞき込んだ先には永田さん。

これもまたたまらない展開だったりします。

 

いやぁ、読み返してユーミン聞きたくなって、電車で「卒業写真」を聞いたら泣きそうになったわ!

【愛があればいーのだ】新書判(昔のやつね。少年・少女コミックに多いサイズ)は全2巻、文庫判(ハガキサイズ)は全1巻です。

新書判には「My dear B・F」という短編も入っていますが、老犬がメインのパラレル。

子供の頃から学生時代にかけて犬を飼っていた私には、これがまた泣けるのである。